大阪地方裁判所 平成8年(わ)3914号 判決 1997年10月14日
本店所在地
大阪市港区弁天四丁目六番二八号
富士工業株式会社
右代表者代表取締役
平尾悦子
本店所在地
大阪市港区弁天四丁目六番二六号
富士管財株式会社
右代表者代表取締役
平尾悦子
本籍
大阪市港区石田一丁目五番地
住居
大阪市港区弁天四丁目六番二八号
会社役員
平尾悦子
昭和一五年九月二八日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官北岡克哉、弁護人桃井弘視(主任)及び同谷山純一(いずれも被告人三名の関係)出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人富士工業株式会社を罰金八〇〇〇万円に、同富士管財株式会社を罰金七〇〇万円に、同平尾悦子を懲役二年六月にそれぞれ処する。
被告人平尾悦子に対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人富士工業株式会社(以下「被告人富士工業」という。)は、大阪市港区弁天四丁目六番二八号に本店を置き、人材派遣業を営む資本金一〇〇〇万円の株式会社、被告人富士管財株式会社(以下「被告人富士管財」という。)は同区弁天四丁目六番二六号に本店を置き、人材派遣業を営む資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人平尾悦子(以下「被告人平尾」という。)は、昭和六三年から平成八年三月三〇日まで被告人富士工業の取締役として、その後は被告人富士工業の代表取締役として被告人富士工業の経理事務全般を統括し、昭和六〇年から被告人富士管財の代表取締役として同社の経理事務全般を統括しているものであるが、被告人平尾は
第一 被告人富士工業の業務に関し、法人税を免れようと企て
一 平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度における被告人富士工業の実際の所得金額が二億九九〇一万九三九四円で(別紙第一の一の1の修正損益計算書参照)、これに対する法人税額が一億〇二五七万二九〇〇円であった(別紙第一の二のほ脱税額計算書1参照)にもかかわらず、雑収入の一部を除外するなどの行為により、右所得の一部を秘匿した上、同年一一月二七日、大阪市港区磯路三丁目二〇番一一号所在の所轄港税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が四四八四万九七三七円で、これに対する法人税額が七二五万九二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税九五三一万三七〇〇円を免れ
二 平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度における被告人富士工業の実際の所得金額が三億四二九九万二四五五円で(別紙第一の一の2の修正損益計算書参照)、これに対する法人税額が一億二三〇四万〇三〇〇円であった(別紙第一の二のほ脱税額計算書2参照)にもかかわらず、前同様の行為により、右所得の一部を秘匿した上、同年一一月二六日、前記港税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が三七二九万一〇五三円で、これに対する法人税額が八四〇万二四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税一億一四六三万七九〇〇円を免れ
三 平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの事業年度における被告人富士工業の実際の所得金額が三億八五一六万八四六八円で(別紙第一の一の3の修正損益計算書参照)、これに対する法人税額が一億三八二〇万二二〇〇円であった(別紙第一の二のほ脱税額計算書3参照)にも関わらず、前同様の行為により、右所得の一部を秘匿した上、同年一一月二五日、前記港税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が五二九九万五〇九五円で、これに対する法人税額が一三六三万七三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税一億二四五六万四九〇〇円を免れ
第二 被告人富士管財の業務に関し、法人税を免れようと企て
一 平成五年三月一日から平成六年二月二八日までの事業年度における被告人富士管財の実際の所得金額が六二八五万三二七二円で(別紙第二の一の1の修正損益計算書参照)、これに対する法人税額が二二二九万八七〇〇円であった(別紙第二の二のほ脱税額計算書1参照)にもかかわらず、雑収入の一部を除外するなどの行為により、右所得の一部を秘匿した上、同年四月二六日、前記港税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が三一三二万二三八〇円で、これに対する法人税額が一〇四七万四五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税一一八二万四二〇〇円を免れ
二 平成六年三月一日から平成七年二月二八日までの事業年度における被告人富士管財の実際の所得金額が一億四九二八万三八二二円で(別紙第二の一の2の修正損益計算書参照)、これに対する法人税額が五四六三万〇七〇〇円であった(別紙第二の二のほ脱税額計算書2参照)にもかかわらず、前同様の行為により、右所得の一部を秘匿した上、同年四月二六日、前記港税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が一億〇〇〇八万七九二一円で、これに対する法人税額が三六一八万二二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により右事業年度の法人税一八四四万八五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。
判示事実全部について
一 被告人平尾の当公判廷における供述
一 被告人平尾の検察官に対する供述調書一一通(四四ないし五〇、五四、五五、五八、五九)
一 平尾眞治、及び山雅三(二通)の検査官に対する各供述調書(二九ないし三一)
一 大蔵事務官作成の査察官報告書(六)
判示第一の一ないし三の事実について
一 被告人平尾の検察官に対する供述調書(五三)
一 被告人平尾の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(五一、五二)
一 登記簿謄本三通(三二ないし三四)
一 大蔵事務官作成の査察官報告書(五)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書一三通(七ないし一九)
判示第一の一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(二)
判示第一の二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(三)
判示第一の三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(四)
判示第二の一、二の事実について
一 被告人平尾の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(五六、五七)
一 登記簿謄本三通(三九ないし四一)
一 大蔵事務官作成の査察官報告書三通(二三ないし二五)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書二通(二六、二七)
判示第二の一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(二一)
判示第二の二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(二二)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(二八)
(法令の適用)
被告人平尾の判示第一の一ないし三並び第二の一及び二の各事実はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人平尾を懲役二年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
さらに、被告人平尾の判示第一の一ないし三の各所為はいずれも被告人富士工業の業務に関してなされたものであるから、被告人富士工業については、判示各所為につきそれぞれ法人税法一六四条一項により、同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して罰金の額を免れた法人税の額以下とし、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算した金額の範囲内で被告人富士工業を罰金八〇〇〇万円に処する。
さらに、被告人平尾の判示第二の一及び二の各所為はいずれも被告人富士管財の業務に関してなされたものであるから、被告人富士管財については、判示各所為につきそれぞれ法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告人富士管財を罰金七〇〇万円に処する。
(量刑の理由)
本件は、人材派遣業会社二社の役員として、各社の経理全般を統括していた被告人平尾が、二社の法人税合計三億六千万円余りをほ脱したという脱税の事実であり、ほ脱税が大きいばかりか、ほ脱率も、被告人富士工業については九〇パーセント以上と相当に高く、国の課税権に対する侵害の程度は重大というべきで、被告人平尾の責任は重い。
しかしながら、被告人平尾は事実を素直に認めて反省の態度を示し、二度と同様の行為に及ばないことを誓っている。また、本件ほ脱に係る法人税については、いずれも修正申告がなされ、本税、加算税及び延滞税の全額が納付されている。さらに、今後は経理について税理士の監督を仰ぎ、同様の事態が起きないよう、組織の面からも経理態勢を整えている。
そこで、本件については、以上のほか、被告人平尾に前科のないことなど、諸般の情状をも総合して勘案し、主文刑期のとおり量刑した上、被告人平尾の懲役刑については、その刑の執行を猶予するのが相当と判断した次第である。
(求刑 被告人平尾悦子に対し懲役二年六月、被告人富士工業株式会社に対し罰金一億円、被告人富士管財株式会社に対し罰金一〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 石井俊和)
別紙第一の一の1
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙第一の一の2
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙第一の一の3
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙第一の二
ほ脱税額計算書
会社名 富士工業株式会社
(1) 自 平成3年10月1日
至 平成4年9月30日
<省略>
(2) 自 平成4年10月1日
至 平成5年9月30日
<省略>
(3) 自 平成5年10月1日
至 平成6年9月30日
<省略>
別紙第二の一の1
修正損益計算書
<省略>
別紙第二の一の2
修正損益計算書
<省略>
別紙第二の二
ほ脱税額計算書
会社名 富士管財株式会社
(1) 自 平成5年3月1日
至 平成6年2月28日
<省略>
(2) 自 平成6年3月1日
至 平成7年2月28日
<省略>